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『祖国とは国語』 国語に期待しすぎ、武士道を過大に評価しすぎ

祖国とは国語 (新潮文庫)
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 藤原正彦著

 日本の国家的危機を救うのは国語教育だとして、いかに国語教育が必要であるか、また現在の国語教育の貧困を嘆く憂国の書です。

 しかし、国家的危機の原因を教育の誤りに求める論旨は杜撰なものです。

 我が国の直面する危機症状は、足が痛い手が痛い頭が痛いという局所的なものではなく、全身症状である。すなわち体質がひどく劣化したということである。国家の体質は国民一人一人の体質の集積であり、一人一人の体質は教育により形造られる。すなわち、この国家的危機の本質は誤った教育にあるということになる。



 比喩をそのまま論理展開させていますが、これがデタラメなのは誰が見ても明らかです。全身症状であるとの決め付け。全身症状は体質の劣化であるとの珍説。国家の体質は国民の体質の集積であるとの非論理的推論。体質は教育により作られるとの珍説。

 国語教育で論理力を身につけたとしても、科学的知見が不十分ならば論理を展開できないことの例証です。

人間はその語彙を大きく超えて考えたり感じたりすることはない、といって過言でない。母国語の語彙は思考であり情緒なのである。
 言語と思考の関係は実は学問の世界でも同様である。言語には縁遠いと思われる数学でも、思考はイメージと言語の間の振り子運動と言ってよい。ニュートンが解けなかった数学問題を私がいとも簡単に解いてしまうのは、数学的言語の量で私がニュートンを圧倒しているからである。知的活動とは語彙の獲得に他ならない。


 語彙が重要というのよいとして、その語彙はどこから得られるのかといえば、国語教育だけではなく各学問の中にもあります。藤原氏本人も数学的語彙を得たから自分がニュートン以上に数学の計算ができると書いています。

 それなのに、藤原氏は小学校の教育において、「一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数、あとは十以下なのである」と断定しています。

 他の教科書を読む前提として国語の語彙が必要だというのかもしれませんが、そこまでしなくとも国語以外の教科の教科書が読めることは誰でも知っています。国語教育の重要性を強調する余りのひいきの引き倒しという印象です。

 藤原氏は国語によって論理的思考力が身につくと論じていますが、ある程度は同意できますが、これも度が過ぎるあまり滑稽な暴論に傾いています。

 通常、小学校の国語には論理学も弁論術もありませんし、ディベートの方法も教えません。国語教育だけで論理的思考力が身につくというのは妄想に近いでしょう。

 自然や芸術に触れるだけでなく文学作品の読書が情緒を育てるとの氏の主張は同意できます。しかし、「勇気、誠実、正義感、慈愛、忍耐、礼節、惻隠、名誉と恥、卑怯を憎む心など武士道精神に由来するかたちや情緒」となると議論の分かれるところでしょう。

 明治大正から終戦までの国定教科書の豊餞に比べ、よくぞこれだけ痩せ細った、と思わざるを得ない。国定教科書には、少々の勇み足も時折あるが、少くとも感動があった。格調もあった。美しい情緒を青くむのにふさわしい読み物が多くあった。



 藤原氏が読んだ美しい情緒を育てる格調のある感動物語がどのようなものであったか大いに興味あります。それを例示していただかないと議論はできないと感じます。読書もそれがどんなものかをよく知らずに、そうだそうだと安易に同意しない方がいいでしょう。美しい物語はしばしばプロパガンダなのですから。

 そもそも武士道などというものは、武士を統治するために徳川幕府が朱子学を取り込んだ作った為政者に都合のいい思想です。明治政府が武士道を学校教育に取り入れたとしたらそれはやはり為政者に都合がいいからでしょう。

 日本人はなにも武士ばかりが立派だったというわけではありません。むしろ庶民こそが江戸期においては立派な文化を形成しました。なにかというとサムライジャパンだのサムライなんたらのという最近の風潮を私は好ましく思っていません。江戸時代の侍は幕府が百姓からとりあげた米を配給されるだけでなんの価値あるものを生み出すことがなかったつまらない階級です。

 武士の価値観はむしろ因循姑息だったのではないでしょうか。武士道にまつわる立派な物語の多くは徳川幕府成立以前の歴史を面白く描いた講談物の中にあるのではないか、と私は疑っています。もちろんそのほとんどは史実を元にした作り話です。


つづく

決定版 この国のけじめ (文春文庫) 古風堂々数学者 (新潮文庫) 父の威厳 数学者の意地 (新潮文庫) 国家の品格 (新潮新書) 若き数学者のアメリカ (新潮文庫)
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