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江戸時代における若隠居

 40代で退職と聞くと、すごく早い引退だと思われるでしょう。じつは40代での引退は江戸時代の隠居に多く見られます。江戸時代には成功した商人などが40歳くらいで家督を子供に譲り、自分はわずかな隠居料をもらいながら、隠居することがよくありました。

 時代によりますが、武家には年隠居の齢制限があったので、早く隠居したいと思っても自分勝手にはなりませんでしたが、町人は隠居の適齢期が決まっていたわけではありません。本人が望み、状況が許せば隠居がかないました。

 井原西鶴は『日本永代蔵』で、「人は十三才迄(まで)はわきまへなく、それより二十四五までは親のさしづをうけ、其(その)後は我と世をかせぎ、四十五迄に一生の家をかため、遊楽する事に極まれり」と書いています。四十五歳までに一生困らないだけの身代(しんだい)を築き固め、それで遊び楽しむのが理想だといいます。45歳といえば、現在の働き盛り。平均寿命が違うとはいえ、うらやましい文化です。生涯現役なんてのは、がっつきすぎというものでしょう。

 このような文化であれば、隠居に対する世間の目は優しいものです。隠居する側にも心理的抵抗がありません。現代では、早期引退して遊んで暮らしたいと思っても、世間の目が気になってゆっくりできません、自分の中にも勤勉主義が内面化されていて、のんびりした閑適と趣味の生活に入っていけないのです。

 西鶴は「若(わかき)時心をくだき身を働き、老(おい)の楽しみはやく知(しる)べし」とも書いていて、若い頃に一生懸命に働いて、早いこと老いの楽しみを知るべきだと、若隠居を勧めています。働くのは隠居のためだといわんばかりです。

 これまでの話だと、金持ちだけが隠居をし、とりわけ若く成功した者のみが若隠居を楽しめたように思うかもしれません。しかし、実際は経済的成功を得たわけでもないのに、早々と隠居を決めた例も多く見られます。とくに自分のやりたい道のあった人は経済的な保障も見込みもないままに、若隠居後の別人生に飛び込んでいます。

 井原西鶴自身は、33歳で隠居の身になっています。裕福な町人の家に生まれたのですが、晩年の生活は困窮しました。おそらく悠々自適な生活を保障された上での若隠居というわけではなかったのでしょう。52歳で没しています。

 松尾芭蕉は若いころに伊賀国上野の武士の家に出仕していましたが、それを退くと江戸に出てきて神田上水の浚渫工事を組織する仕事をし、36歳で隠居の身になっています。

 芭蕉は財産にゆとりがあった形跡はありません。俳諧の宗匠であったので、弟子たちの支えを受けながら生活をしたようです。『奥の細道』を読むと、旅の先々で芭蕉を慕う人々の歓待を受けた様子が描かれています。

 36歳の隠居は早いような印象を受けますが、旅に明け暮れた芭蕉が50歳で病死したことを思えば、この若さで隠居したからこそ、数々の名句が生まれたわけで、西鶴と同様にとくにやりたいことがある趣味人ならば若い年齢での隠居を目指すべきとの教訓を残したともいえます。

 「東海道五十三次」の浮世絵の連作で知られる歌川広重は、さらに若い年齢で隠居をしています。わずか26歳の若さで義弟に家督を譲り、隠居の身となりました。広重の場合は養子に入った家に子供ができて、仕方なく家督を譲りました。経済的成功とも無縁です。

 広重もまた若く隠居したがゆえに絵に没頭できたわけです。広重は65歳で病没しています。西鶴、芭蕉に比べれば長命であったし、人気絵師となった晩年はさぞ悠々自適の生活だったろうと想像されるかもしれませんが、著作権がなかった当時の絵師は裕福ではありません。

 総じて彼らなりに晩年を輝いて生きられたのは若隠居のたまものであったといえます。そこそこ食えればいい。好きなことをやって暮らしたいというのが、彼らの一致した願いではなかったでしょうか。

 わざわざ江戸時代の例を引いたのは、早期退職には若隠居という文化的な伝統があるとわかって欲しかったからです。

日本永代蔵―現代語訳・西鶴 (小学館ライブラリー)
井原 西鶴
409460023X


おくのほそ道(全) (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)
角川書店
4043574029


もっと知りたい歌川広重―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)
内藤 正人
4808708175

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