スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

知的な活動は疲れない

 人様が好き勝手にやっている趣味に対して、どれが上等でどれが下等であると優劣をつけるのは野暮というものですが、ショーペンハウアーは『筆のすさびと落穂拾い』でこのように書いています。

 「人間の能力は使用されることを求めてやまず、人間は使用の成果を何らかの形で見たがるものである。けれどもこの点で最大の満足が得られるのは、何かを仕上げること、作ることである。籠を編むもよし、書物を著すもよい。特に一つの労作が自分の手で日に日に成長し、やがて完成するのを見るということからは、直接的に幸福が与えられる。こうした働きをもつものは芸術作品とか著述とかである。いや普通一般の手工業でさえ、こうした働きをもっている。とはいえ労作が高級であればあるほど、享楽も高尚であることはいうまでもない。」(『幸福について』橋本文夫訳、新潮社)。

 頭を使わず何も残らないドミノ倒しよりも、油絵を描いたり、短歌でも作った方がより高級な趣味でしょうし、満足度も高いでしょう。ショーペンハウアーがいうように楽しみにも高級なものとそうでないものの違いは確かにあるようです。ギャンブルや飲酒などは趣味としてはレベルが低く、悪い意味での道楽に分類されるのも当然です。

 ショーペンハウアーは続けます。「重要な、偉大な、まとまった労作を生み出すだけの能力を自覚した才能の豊かな人は、この点からみて、いちばん幸福である」。おそらく『意志と表象としての世界』を書き上げた自分自身のことをいっているのでしょう。ここまでくると自慢話として割り引いて聞いた方がよさそうです。

 B級遊民はそこまで求めません。もっと大衆化したレベルにあるからこそB級なのです。それこそ趣味の範囲でよろしいという軽いスタンスが欲しいところです。

 より知的な活動ほど上等であり、それが可能なほど幸福であるという考えはアリストテレスに起源があります。知性(理性的本性)こそが人間の最高の本性であり、その知性を充分に発揮することが徳であり、幸福であると彼は考えました。カール・ビューラーの言葉を使えば、知性の活動こそが機能快というわけです。

 「知性の活動は--まさに観照的なるがゆえに--その真剣さにおいてまさっており、活動それ自身以外のいかなる目的も追求せず、その固有の快楽を内蔵していると考えられ(この快楽がまたその活動を増進する)、かく、自足的・閑暇的・人間に可能なかぎり無疲労的・その他およそ至高なる人に配されるあらゆる条件がこの活動に具備されていることが明らかになってみれば、当然の帰結として、人間の究極的な幸福とは、まさにこの活動でなくてはならないだろう。」(『ニコマコス倫理学』アリストテレス、高田三郎訳、岩波書店)

 アリストテレスによれば、知性の活動=哲学は労働ではありません。かといって、遊びではないし、暇つぶしでもありません。真剣に行われる閑暇的な活動です。一般的な用語で言えば、趣味、道楽でしょうが、あまりに高尚すぎて凡人が近づけないほどの(至高なる人には可能な)人間の究極的な幸福です。ここまでくるとわれわれとは無縁ですが、究極の姿、理想型としてはこうなるようです。

 今の引用の中に「無疲労的」とありました。頭を使ってなぜ疲れないのかと不思議に思いますが、「脳は疲れない」とする研究者もいます。脳科学者の池谷裕二は『海馬/脳は疲れない』で「脳はいつでも元気いっぱいなんです。ぜんぜん疲れないんです」と発言しています。「脳が止まってしまったら、体肢も五臓六腑もぜんぶ動きがストップします。寝ているあいだも脳は動き続けて、夢を作ったり体温を調節したりしています。一生使い続けても、疲れないですね。疲れるとしたら、目なんですよ。」

 頭が疲れたな、と思っても実際には脳は疲れていないそうです。知的な趣味に疲れたら、目を休め、体を少し動かしてやれば、また続きができます。

 肉体を使った趣味にも魅力はあります。スポーツクラブで運動した後に入るジャグジーバスの快感は素晴らしいものです。手っ取り早く気分をハイにするにはスポーツが一番でしょう。しかも健康にもいいのですから。

 しかし、肉体は疲れてしまいます。たとえば2時間もジョギングをすれば、たいがいの人はへばってしまうでしょう。運動後の疲労の中に充実感はあるにしても、それだけで自由時間を埋めるのは困難です。

 知性の活動は固有の快感をもたらし、無疲労的です。もしこれが本当であれば、知的な趣味に手を出さないのは損というものです。無尽蔵に楽しみを引き出すことができるのですから。


幸福について―人生論 (新潮文庫)幸福について―人生論 (新潮文庫)
ショーペンハウアー


Amazonで詳しく見る
by G-Tools


ニコマコス倫理学〈上〉 (岩波文庫)
アリストテレス 高田 三郎
4003360419


ニコマコス倫理学 下  岩波文庫 青 604-2
アリストテレス 高田 三郎
4003360427


海馬―脳は疲れない (新潮文庫)
池谷 裕二 糸井 重里
4101183147

スポンサーサイト

テーマ : 楽しく生きる
ジャンル : ライフ

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

Author:Cozy
情報処理系講師、フリーライター。減速生活者にしてB級遊民。

Twitterはcozyoffです。
TwilogはCozy(@cozyoff)です。

当ブログへのリンクはご自由に。

名言集および格言集
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
FC2カウンター
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。