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『空気と戦争』 猪瀬直樹 戦前も戦後も官僚主権だ

空気と戦争 (文春新書)
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 日本はなぜ太平洋戦争に突入したのか。それは空気のせいだ。

 こういってしまうとひどくバカバカしく感じますが、会議などの重要な場面で支配的な空気で物事が決まってしまうことはよくあることです。太平洋戦争でもそういうことがあったというのが著者の猪瀬氏の見解です。

 中国から撤退すれば欧米と衝突せずにすみ、満州と台湾は日本に残る可能性はありました。それに対して陸軍は、「支那の英霊十万」を捨てるのかと明治以来の中国での死者数を上げて反対しました。犬死になるから撤退はしないというのです。

 新聞も国民も戦争を回避すべきではないという雰囲気に満ちていました。 

 こうした状況で客観的であるべき人たちが空気を読んで間違ったデータを作り、戦争での勝利の可能性を示唆してしまった、ここに問題がありました。

 戦争をするための資源、とりわけ石油をどう確保すべきか、これが最重要課題でした。南進すれば石油は確保できるというのが当時の日本の考えです。しかし、それには具体的な数字が必要です。現在の備蓄量、国内の生産量、東南アジアを侵略して獲られる石油量を算出し、さらにそれが輸送できる可能性を検討しなければなりません。加えて国内での消費量、戦争遂行のための必要量を計算し、需要と供給が見合うかどうかを判断しなければなりません。

 ところがこの過程でいろいろと日本的な特質で数字がゆがめられていきます。需要側では官僚的な悪癖である過剰な概算要求が出され、供給側では捏造まがいのデータ作成、空気を読むことでつじつま合わせ、根拠のない楽観的な数値の提示などが行われました。その結果、日米開戦三年後でも十分まかなえるという結論に至ります。

 実際はこれほど単純ではありませんが、図式化するとこんな感じです。そしてこのような誤りは官僚に特徴的であるといいます。

天皇主権でも主権在民でもない官僚主権がつづいているという意味では戦前も戦後も連続している、その視点が歴史意識である。


 なぜ戦争をしたか。
 僕の結論は、そこに軍国主義があったからという理由がすべてではない。
 意思決定のプロセスの中で数字データのインプット・ミスとか、あるいは最終決断にあたっての自己責任の放棄とか、いまも起きていることと同じような日常性が日米戦を呼び込んだのではないか。もちろん世論とか、空気とか、当時と現在では少し違うところはある。でも根本的にはそれほど変わっていない。


 本書で猪瀬氏がいいたかったことはあの戦争のことだけでなく、今も昔も官僚支配が日本を蝕んでいるということです。その場の空気を読んで行動し、ある方針に沿ってつじつま合わせをしていき、その結果がどうあろうと自らは責任を取らない。そういう構造はずっと同じです。

 じつは本書の中心部分は総力戦研究所の模擬内閣による戦争のシミュレーションにあります。30代の若手官僚と民間人によって構成された模擬内閣は、もし戦争をすればどうなるかを検討します。結論は、「日米戦必敗」でした。それなのになぜ戦争に突入したのかを分析しているのが本書の肝です。

 まともに考える力がある人々を集めて外部の影響からある程度切り離して検討をさせれば、正しい結果を出すのに、空気が作用する場面、官僚主義が支配する場面ではそうはいかないこと、それを描き出しているわけです。

 さて、実際の戦争はどうであったか。

 予想外の幸運で、日本はオランダが支配していたインドネシア、スマトラ島のバレンバン油田を無傷で手に入れることができました。

 ところがその石油を運ぶタンカーは、つぎつぎとアメリカ潜水艦のエジキとなる。その経過は、総力戦研究所の想定どおりであった。



 戦争の経過を予想するには、日米の情報収集力、情報分析力、工業生産力、科学兵器の開発力の違いなども考慮に入れる必要があり、一筋縄ではいきませんが、少なくとも想定された重要要因を無視する、あるいは軽視することが必敗の戦争に突入させた原因の一つであることは間違いないようです。

 ちなみに「空気」とは同調行動であると猪瀬氏は考えています。これには社会心理学の有名な実験があり、根拠としては十分かもしれません。しかし、日本語で「空気」といった場合、それは同調行動よりも広い概念であるような気がします。氏が言うように研究が必要なところでしょう。


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