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『系統樹思考の世界』 三中信宏 古因学とアブダクションと系統樹

系統樹思考の世界 (講談社現代新書)
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 著者が本書で問題にしているのは、物理学のような典型的な科学とは違う科学、たとえば歴史学であり進化生物学です。それはヒューウェルが定義した古因学の定義に当てはまるような科学でもあります。

 「古因学」に分類されるためには、「過去の事象に関する因果法則」を追求するという研究目的が共有されていることがただひとつの条件です。


 古因学の対象は、生物、非生物を問いません。言語も活字も電気製品も古因学に含むことができます。

 そこで使われる推論の手法は、演繹でも帰納でもなく、アブダクション(最良の説明への推論)であり、時間軸を含めて図像化すれば系統樹になります。

 では、アブダクションとはなんでしょうか。

 理論の「真偽」を問うのではなく、観察データのもとでどの理論が 「より良い説明」を与えてくれるのかを相互比較する  アブダクション、すなわちデータによる対立理論の相対的ランキングは、幅広い科学の領域(歴史科学も含まれる) における理論選択の経験的基準として用いることができそうです。
 第三の推論様式としてのアブダクションは、さまざまな学問分野において、”単純性(「オッカムの剃刀」)”とか ”尤度”あるいは”モデル選択”というキーワードのもとに、これまでばらばらに論じられてきました。しかし、将来的には統一されていくだろうと私は推測しています。


 アブダクションはなかなか危険な論理で、形式的には論理学でいう後件肯定の誤謬に等しいものです。当然このような推論を採用すればそれはもはや科学ではないとの反論はあり得るでしょう。少なくとも厳密な意味での科学ではない、と。

 著者は従来の典型的な科学にもこんなことをいいます。
 

 直感的あるいは日常的な意味での「真」あるいは「偽」ということばは、私たちに強くアピールするものがあります。「それは真実だ」と言われれば、つい納得してしまう人は少なくないでしょう。しかし、論理学における「真」とか「偽」という表現は、日常的な用法よりはるかに強い意味をもちます。それは他の可能な仮説や説明との比較を必要とせず、データのみに基づいてある仮説や説明の真偽を判定しているからです。
 一方、現実の科学の現場では、得られたデータに照らし、ある仮説や主張がどれくらい妥当なのか、対立仮説と比較してその仮説を受容できるのかどうかが大きな問題です。データに基づいて、ある科学的仮説が「真」あるいは「偽」であることをテストするのは、かぎりなく困難だと言わねばなりません。
 科学では、仮説の論理学的な意味での「真偽」を判定しているのではなく、データに支えられた範囲での仮説間の相対的比較をしているのだと考えたほうが、実際により近いと私は考えています。これはデータに基づく推論とみなせます。


 こういう科学観の持ち主がアブダクションを受け入れることはさほど抵抗のない、むしろ自然なことなのでしょう。

 さて、系統樹。

 起源(オリジン)から始まる多様性への変化を時間軸に沿ってその発生を枝分かれとして図像で描けば、系統樹になります。そしてむろん古因学的な科学の対象を図像で表現すれば系統樹になります。

 本書の多くの部分は、この系統樹の豊かさを語ることに費やされています。

 しかし愕然とするような事実が語られます。系統樹的思考では「祖先子孫関係」は原理的に不可知であるというのです。系統樹を使った推論の方法はきちんと数学的に整理されていますが、本当の姿は不可知です。

 さらにやっかいなのは、系統樹はツリー構造であり、ネットワーク構造(網構造)の一部であることです。たとえば、生物の進化は系統樹で表しますが、実際の血縁関係、親子関係は系統樹では表現できません。ひとりの子供から見れば親は複数いるのです。つまりネットワーク構造になっています。

 対象を細かく分析すればするほど、系統樹ではなくネットワークで問題を解く必要がありそうです。

 最後に、ジョセフソン夫妻が定式化したアブダクションの推論様式を以下に紹介しておきましょう。

推論様式

 前提1 データDがある。
 前提2 ある仮説HはデータDを説明できる。
 前提3 H以外のすべての対立仮説H'はHほどうまくDを説明できない。
 結 論 したがって、仮説Hを受け入れる。


 アブダクションによりある仮説がベストであると判定されるための諸条件

 (1)仮説Hが対立仮説H'よりも決定的にすぐれていること。
 (2)仮説Hそれ自身が十分に妥当であること。
 (3)データDが信頼できること。
 (4)可能な対立仮説H'の集合を網羅的に比較検討していること。
 (5)仮説Hが正しかったときの利得とまちがったときの損失を勘案すること。
 (6)そもそも特定の仮説を選び出す必要性があるかどうかを検討すること。



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