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太宰治の人格のくだらなさと『斜陽』

ETV特集『「斜陽」への旅 ~太宰治と太田静子の真実~』の再放送を見て、太宰治は卑怯な男とつくづく思いました。

没落貴族の太田静子の小説はどうもダメだと見切った太宰は彼女に身近なことを記せと日記を書くことを命じます。これは、いつかその日記を小説に使えないかと考えた太宰の作家としての深慮だったようです。

疎開先の津軽にいる太宰と下曽我の山荘にいる静子との間に手紙のやりとりがはじまります。手紙に使った原稿用紙の欄外に「コヒシイ」と書く太宰。たわむれなのか、本気なのか。はたまた打算なのか。

売るものもなくなり生活に困った静子が書いた手紙は、愛人になれるかと打診するユーモアと切実さのない交ぜになったものでした。

しかし太宰の返事はどっちつかず。生活のことは心配するなといいながら、あまり踏み込んではいません。静子は状況は決定的にするために「赤ちゃんが欲しい」と手紙に書きます。及び腰になる太宰。そんな半端なら「お別れいたします」と脅す静子。

結局、太宰は日記を手にするかわりに静子を抱き、妊娠させることになります。

このあたりの駆け引きの真相はどういうものだったのでしょう。太宰は斜陽という小説のために子どもが生まれてもやむなしと考えたのかもしれません。しかし、静子はどうだったのでしょう。本当に愛人として生きるつもりだったのか。やがて別れることになっても子どもが欲しかったのか。静子の場合も愛か打算かよくわかりません。

後に、娘の治子(このとき授かった太宰の子)には「芸術のために、あなたは生まれたのだ」と説明したそうです。太田治子は「二人とも芸術至上主義者だったから」といっていますが、いささかごまかしが入った解釈であるように感じます。

静子の妊娠を知った太宰は「君はいいことをした」といい、「一緒に死ねなくなった」ともいいます。

その後、太宰は静子に連絡することもなくなり、距離をおきます。会いに来た静子に冷たく、二人きりになろうとしません。太宰は静子を肖像画を書き、泣いているような悲しい姿を絵にして彼女に渡します。

以後、二人は会っていないそうです。もちろん赤ん坊にも会っていません。

子どもが生まれると静子の弟が認知を申し出て太宰は自分の仕事場でこう書きます。

この子は
私の可愛い子で
父をいつでも誇つて
すこやかに育つことを念じてゐる


子どもには自分のペンネームの一文字を与え「治子」と命名しています。この仕事場には一緒に心中することになる山崎富栄がいました。

子どもができていなければ、太宰は静子と心中したのでしょうか。その可能性は大いにあります。

このあたりの流れは小説以上に小説的です。虚構と現実がないまぜになったような不思議な印象を受けます。山崎富栄の日記も残っていて、晩年の太宰をめぐるネタはつきません。

斜陽には静子の手紙が使われ、ほぼ原文のままに引用された箇所もいくつかあるそうです。もちろん全体から見れば、ごくわずか。やはり素材にすぎません。しかしきわめて重要な素材です。

それにしても太宰の手のひらを返したような変わりようは不思議です。日記を手に入れ、用がなくなれば、さようなら、そういうつもりだったのでしょうか。やはり太宰はそんな人間なのでしょうか。

斜陽の主人公はこんな手紙を書いて、愛人関係にあった作家に別れを告げます。

どうやら、あなたも、私をお捨てになったようでございます。いいえ、だんだんお忘れになるらしゅうございます。
 けれども、私は、幸福なんですの。私の望みどおりに、赤ちゃんが出来たようでございますの。私は、いま、いっさいを失ったような気がしていますけど、でも、おなかの小さい生命が、私の孤独の微笑のたねになっています。


おれはお前を捨てたけど、お前はおれの子を得て幸せなんだ、と虫のいいことをいっているようにも聞こえます。

あなたが私をお忘れになっても、また、あなたが、お酒でいのちをお無くしになっても、私は私の革命の完成のために、丈夫で生きて行けそうです。
 あなたの人格のくだらなさを、私はこないだも或るひとから、さまざま承りましたが、でも、私にこんな強さを与えて下さったのは、あなたです。私の胸に、革命の虹(にじ)をかけて下さったのはあなたです。生きる目標を与えて下さったのは、あなたです。
 私はあなたを誇りにしていますし、また、生れる子供にも、あなたを誇りにさせようと思っています。


よくこんなことが書けたものだと思います。

娘の太田治子は最近『明るいほうへ』を上梓して、静子の言葉を伝えています。静子は太宰のことを正直な人、素直な人だとメモに書いています。確かにそうかもしれません。用がなくなれば正直に捨てたのだし、感情に素直に冷淡にもなれました。

しかし、捨てられた事実をどう捉えていたのでしょうか。死ぬつもりの太宰は自分と距離を置いたのだと考えたのでしょうか。

静子は前向きでストレートな人ですから、捨てられた事実にはこだわらなかったのかもしれませんが、太宰と離れた当時の気持ちを知りたくなります。

裏事情がどうあれ『斜陽』は間違いなく日本文学の傑作です。太宰の人格のくだらなさがどれほどのもであっても、作家としての才能はまったく疑う余地がありません。

斜陽 (新潮文庫)
4101006024


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