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失われた古代からの知恵

 閑適を目指しあまり働かないのであれば、当然、収入は少ない。少ない収入でも心豊かに暮らすには「足るを知る」ことがなによりも大切になります。

 足るを知るとは、自分が所有しているわずかなもので足りている、十分であると考えることです。広辞苑には「現状を満ち足りたものと理解し、不満を持たないこと」とあります。

 「知足」の思想は古来より存在し、日本人には馴染み深いものです。

 ブッダが入滅する際に残したとされる『遺教経(ゆいきょうぎょう)』に「知足の人は地上に臥(ふ)すと雖(いえど)も、なお安楽なりとす。不知足の者は、天堂に処すと雖も亦意に称わず。不知足の者は、富めりと雖も而も貧し。」とあります。「足ることを知っている人は地べたに寝ていても安楽です。足ることを知らない人は天の宮殿に住んでいても心は満たせません。足ることを知らない人はお金があっても貧しいのです」という意味です。

 このお経は鳩摩羅什(くまらじゅう)により漢訳されたものです。詳しくは『仏垂般涅槃略説教誡経(ぶっすいせつねはんりゃくせっきょうかいきょう)』といい、禅宗で重んぜられています。 

 日本で作られたお経である『往生要集』には「足ることを知らば貧といへども富と名づくべし 財ありとも欲多ければこれを貧と名づく」とあります。同じ意味ですが、より簡潔に表現されています。

 『老子』の三十三章にも「足るを知るものは富む」とあります。仏教と同じ意味です。辞書に引用されている文章はたいがいが老子のこの一節です。

 『論語』の学而十五には「子(し)貢(こう)曰く、貧にして諂(へつら)うなく、富みて驕(おご)るなきはいかん。子曰く、可なり。いまだ貧にして道を楽しみ、富みて礼を好む者にしかざるなり。」とあります。「子貢がいいました。貧乏であってもへつらわず、豊かであってもおごらないのはどうでしょうか。先生が答えられました。よろしい。しかし貧乏であっても道を楽しみ、豊かであっても礼儀を好むのには及ばないだろうね。」

 論語においては、直接に「知足」を語ってはいませんが、貧しくても品位を失わない、仁を失わないという意味の言葉が出てきます。広い意味で知足をふくんでいると見ていいでしょう。

 このように仏教、道教、儒教のいずれにも知足の思想はあらわれています。いずれも日本に多大な影響を与えたインド思想であり中国の思想です。当然、日本に輸入された後も知足の考えは日本人の中に浸透しました。仏教や儒教について書かれた本には知足や節約についての言及がありますし、茶道には「知足安分」という言葉も残っています。

 思想だけに限定されません。知足は節約という形で日本人の生活の基調をなしていました。日本人は、紙や木をうまく使い(広い意味での太陽熱の利用です)、さまざまな生活財をリサイクルし、過剰な消費をできるだけ避けるような生活の仕組みを作り上げました。江戸時代にはこのような生活スタイルはほぼ完成していました。

 そんなに昔ではなくとも以前の日本人はものを大切にしていました。一度購入したものは徹底的に使いきったものです。古くなったからとか新製品が出たからと買いなおすことなどありませんでした。ほんの数十年前まではそうした生活スタイルが当たり前であったのです。

 こうした道徳、美徳を日本人が失うのは、明治維新以降のことです。最初はゆっくりと進みました。文明開化の西洋化により工業化が進み、欧米の消費文化も少しずつ浸透しました。かつての呉服屋が百貨店になり、新しい西洋風ファッションや美容に関心を示す婦人たちが消費文化の主役となりました。

 こうした流れは太平洋戦争で一度チャラになるのですが、戦後、急速に復興します。とりわけ日本人の消費スタイルに変化が現れるのは、1955~1973年の高度経済成長期においてです。1956年に経済白書が「もはや戦後ではない」と宣言し、1959年には「消費革命」という言葉が登場しました。

 アメリカ流の浪費戦略論(マーケティングの一種)も輸入されて、メディアを通じて日本人全体の意識を変化させ、国民の欲望は急激に増大しました。

 日本人の意識は変わりました。日本人はものを大切にすることをやめました。まだまだ使えるものであっても、さっさと廃棄して新製品を買うようになりました。古来よりの知足という道徳は消えました。「もったいない」の心を失いました。アメリカの後を追うようにして日本は世界有数の高度消費社会となったのです。

遺教経に学ぶ―釈尊最後の教え老子 (中公文庫)
論語 (岩波文庫)往生要集―地獄のすがた・念仏の系譜 浄土への往生を苛烈なまでに求めた時代と人びとの心 (NHKライブラリー)

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