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『セーフティーネットの政治経済学』 金子勝

セーフティーネットの政治経済学 (ちくま新書)
金子 勝
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 経済学者の金子勝氏が「小さな政府」でも「大きな政府」でもなく、市場原理主義や中央計画型社会主義でもない、第三の道の社会改革を提言しています。

 それはセーフティーネットの再構築と財政中立的な制度改革によって実現されると金子氏はいいます。

 セーフティーネットは、「労働、土地、貨幣といった本源的生産要素と呼ばれる市場を中心として形成」されます。それらは生産され消費される一般的な商品とは性格を異にし、「本来的に市場化になじまない性質をもって」います。だからこそ、「セーフティーネットとそれに連結した制度やルールが必要」なのです。

 これらのセーフティーネットは現在主流の経済理論、とりわけ新自由主義に反することであり、危機における「例外的」な措置と考えられていて、理論の中に正当な位置を得ているわけではありません。そこに問題性があるというのが金子氏の考えです。

 年金・失業保険・健康保険といった社会保障制度を最終的セーフティーネットとして、それに連結して熟練や技能の社会的制度化(つまり教育制度・職業訓練制度や資格制度の整備、労働基準法、あるいは労働組合の法的承認と雇用・仕事や賃金体系・解雇などのルール化)が存在しないと、労働市場は安定的に機能しない。



 現在の社会状況を見ればわかるように、これらセーフティーネットの不備のためにまったく労働市場は安定的に機能していません。契約の打ち切りと同時にあっという間にホームレス化してしまう派遣社員がまったく守られていないことは明白です。(セーフティーネット以前に現在の派遣労働法が異常ですね)

 不安を感じているのは非正規雇用の派遣社員ばかりではありません。正規雇用であってもどうなってしまうのか不安な人々は支出を抑え、ひたすら貯蓄に励みます。結果的には経済は縮小せざるをえません。

 もちろん、多様な消費スタイルはあって当然です。浪費好きな人がいたり、ほどほど消費してちょっとだけ貯蓄する人がいたり、まったく消費に関心を示さない人がいます。しかし、現在の消費マインドの冷え込みは自分が好きでやっているのではなく、恐れや不安からそうせざるを得ないという一種閉塞的な状況なのです。

 消費マインドの冷え込みは雇用の不安定さだけが原因ではありません。年金政策に不信感を持ち、将来に安心できないことも大きく影響しています。

 しかし、将来不安を払拭するほどにセーフティーネットが十分であれば、生活防衛のために極端な節約に走る必要はありません。それでも不況は来ることはあるでしょうが、パニック的な反応をする必要はないのです。

 土地や住宅に関してもセーフティーネットは必要です。

 具体的には、住宅地を買い占めや投機から守ったり、環境や景観を守ったりするために、都市計画規制が必要になる。あるいは低所得者に住居を保障するために、公営住宅や家賃補助や減税政策などの公的住宅政策が必要になる。逆にいえば、これらの諸制度がないと、土地市場は安定的に機能しない。



 土地に対する投機を制限しなければ、土地バブル、不動産バブルが容易に発生します。また、その崩壊も起こります。それがどれほど日本や世界にダメージを与えたか、あるいは現在与えているかはすでに知るところです。

 現在、解雇された非正規雇用者のために政府や自治体が付け焼刃的に住居の提供などを考えていますが、本来ならばこのような事態に備えて制度化していなければならないことですし、企業が住居の提供を暫く続けるようなルール作りをしておくべきでした。

 貨幣については労働や土地とは性格が違います。貨幣においては信用が重要な意味を持ちます。そのため「銀行システムが機能するには人々が信認する制度やルールが不可欠」と金子氏はいいます。

 貨幣の世界を市場に任せれば任せるほど、市場が「無限」に信用を拡大する可能性を秘めているがゆえに、人々の信認が揺らぎ、貨幣が暴力性を発揮して市場を麻痺させる潜在的危険性を増幅させてゆく。こうした事態に直面する度に、中央銀行の最後の貸し手機能や預金保険機構といった金融的セーフティーネットが形成され、それに連結する形で金融制度ができてくるのである。



 レバレッジをきかせてバブルを巨大化し、それが破裂すれば、信用収縮によりパニック状態に陥るのが現在の金融資本主義の世界です。こうした不安定さを抑えるにはなんらかの制度、ルールが必要なのはもはや明白です。市場に任せているだけでは信用収縮を抑えることはできません。 

 さらに金子氏は制度改革として、税方式での年金改革、地方への税源移譲を提言しています。

 

年金改革では、基金を取り崩しながら保険料を社会保障税に改めるだけであり、地方分権改革では、所得税の基礎税率部分を住民税に移し変え、それに見合う補助金をカットするだけである。いわゆる財源の入れ替えだけで、仕組みを大きく転換させるのである。これにしたがえば、福祉の拡充が「大きな政府」を生み出すことにはつながらない。



 大きな政府でもなく小さな政府でもない財政中立的な制度改革ということです。

 また、保障制度の改革に際しては「三つの福祉政府体系」として、中央政府、社会保障基金政府、地方政府の三者によって構成されるべきだと主張しています。

社会保障基金に税務査察権限を与えながら、独自の政府として中央政府に対する「独立性」を与え、透明性を高めてゆくことが必要になる。同様に、健康保険制度にも、医師会代表と患者代表が話し合う<場>が設定されねばならない。



 要は既得権を打破するということでしょう。「キーワードは、権力の分散・透明性・参加」ということだそうです。

 以上、金子氏の主張の概略を見てきました。

 なかなかすぐれた提言だと思いました。今回のリーマンショック以降の状況を見ているとなお説得力が増してきます。

 しかし、政官財の癒着の中でこのような改革は望めそうもないという意味では、安易に希望を持つわけにもいきません。政治的に大きな変化がなければなりません。民主党が政権をとるだけの変化ではとても足りない、もっと大きな変化が必要ではないでしょうか。


逆システム学―市場と生命のしくみを解き明かす (岩波新書) 閉塞経済―金融資本主義のゆくえ (ちくま新書) ダマされるな!―目からウロコの政治経済学 (Keiブックス) 誰が日本経済を腐らせたか 増補版 (角川文庫) 市場 (思考のフロンティア)
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