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夏目漱石の描いた高等遊民

 B級遊民という言葉は「高等遊民」をもじってつけました。ここで紙数をいただいて、高等遊民とはいかなるものかについて多少の蘊蓄を語ることにいたします。

高等遊民とは、明治時代の無職の大卒者のことを指します。彼らは金持ちの子弟であり、高等教育機関=大学を卒業したにもかかわらず就職もせずに、裕福な親の世話になってのらくら暮らしていました。夏目漱石の小説『それから』の主人公、代助がその代表的な存在です。

 なぜ高等遊民が生まれてしまったのでしょうか。理由は単純で、就職口が見つからなかったからです。代助と同世代である明治44年卒の大卒者は50%以下の就職率でした。それでしかたなくブラブラしていたわけですが、ブラブラできるだけの後ろ盾もありました。高等遊民の家庭は上流階級が多かったのです。なにしろ明治時代の大学進学率は3%と低く、金持ちでなければ子弟を大学に進ませるなどということは基本的にはありませんでした。

 現在の日本でも大卒後ブラブラしている連中はたくさんいるのはご存知のとおりです。しかし、彼らは高等遊民とは呼ばれずに、即物的に「大卒無職」あるいは「大卒ニート」と呼ばれています。

 この違いは何かと言えば、やはり大卒者の数の圧倒的な違いからきます。なにしろ現在の大学進学率は50%弱。約半数の子どもが大学へ進む時代となっています。かつては学士様と呼ばれた大卒者も今ではフツーの存在になってしまいました。もはや学士の肩書きを「高等」と呼ぶ人はいません。

 当然、大卒者の家庭もフツーの家庭です。中流の家庭の子どもがフツーに大学にいきます。つまり、高学歴化かつ高等教育の大衆化の時代になりました。

 ちなみに大学進学率は、大正時代で4%、昭和に入っても戦前は5%程度にすぎませんでした。大学の大衆化はここ数十年の出来事です。それが今ではその気になれば誰でもなれる実に気楽な存在です。少子化が進んだ現在では大学の方から入学をお願いしてくる始末です。

 話を高等遊民に戻して、小説「それから」を題材にして、その生活ぶりを見てみましょう。

 「それから」の主人公・代助は大学を卒業しても就職せずにブラブラして暮らしています。ブラブラといっても、親の家にいるわけではありません。一軒家に家政婦として雇った婆さんといっしょに暮らしています。書生も一人出入りしています。仕事はしない代わりに、一日読書をしたり、音楽会へいったりして時間をつぶしています。

 ちなみに書生とは、一般の家庭に寄宿する大学生のことです。住居の一角に住まわせてもらう代わりに、家の手伝いなどをします。明治の中期あたりまでは、学生アパートなどあまりなかったようです。

 代助の兄の誠吾は父の関係する会社で重要な地位にあり、姉は外交官に嫁いで外国暮らしをしています。親のすねをかじっているのは代助だけです。月に一度、代助は実家に金を受け取りに行くのですが、たまたま居合わせた父の得と代助は対座することになります。

 代助の父は「お前だって、そう、ぶらぶらしていて心持ちのいいはずはなかろう」と説教を始めます。しかし、お金を得るための労働をすすめるわけでもありません。おそらく代助がそういうことを軽蔑していることを知っているのでしょう。さすがに明治の上流は違います。

 「月々のお前の生計ぐらいどうでもしてやる。だから発奮してなにかするがいい。国民の義務としてするがいい。もう三十だろう」

 さらにこうもいいます。

 「三十になって遊民としてのらくらしているのは、いかにも不体裁だな」

 それに対する代助の考えはこうです。

 「代助は決してのらくらしているとは思わない。ただ職業の為に汚されない内容の多い時間を有する、上等人種と自分を考えているだけである。親爺がこんな事を云うたびに、実は気の毒になる。親爺の幼稚な頭脳には、かく有意義に月日を利用しつつある結果が、自己の思想情操の上に、結晶して吹き出しているのが、全く映らないのである。」

 彼の考えはほとんどの読者には予想外のものでしょう。

それからそれから (岩波文庫)高等遊民天明愛吉
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テーマ : 文学・小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:Cozy
情報処理系講師、フリーライター。減速生活者にしてB級遊民。

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